マルチ・スズキで起こった暴動について
昨年の6月と10月にマネサールのマルチスズキ工場では、労働組合の認可を巡って3回のストライキが起こっている。また、賃金交渉が進行中であり、1,500人の契約労働者の処遇について労働者側がマルチスズキ社に改善を要求していたが、経営者側は交渉に積極的に応じようとしなかった。これが労働者を苛立たせていた。また、労働者の間には、グルガオン工場の労働者の方の待遇が良く、給与面でも優遇されているのではないかという猜疑心が生じていた。
州政府は暴動を非難し、暴動を扇動した者を捕らえ処罰すると発表した。これは、マルチスズキ社がハリヤナ州における工業化の騎手であり、州の財政に計り知れない貢献をしているからであり、もし同社がグジャラートに移転してしまっては、外資導入に積極的と言われるハリヤナ州の面目が丸潰れとなるからである。また、地元住民の生活もマルチスズキ工場とその付帯施設に大きく依存しており、彼らも同社がマネサールから去ることを望んでいない。
マルチスズキ社は、昨年の労働者のストライキの解決策として会社、労働者、州政府の労働委員会と3者間合意を取り付けていた。その合意の中で、同社は、大半の労働者の強制休職を取り消し、ストライキ実施間の給与支払停止措置を緩和し、更に独立した労働組合組織の結成を認めた。
問題の核心は、マルチスズキ社のマネジメントにあると思われる。2007年以来、マルチスズキ工場の経営陣は、労働者に対してかなり厳しい接し方をしており、労働者並びにその労働組合と十分な対話をして来なかった。ハリヤナ州政府の特別調査チームは、もしマルチスズキ社の経営陣が真剣に情報収集を行ない、それを分析して適切な処置を施していれば、今回の暴動は起こらなかったと述べている。また、マルチスズキ社は、その労働契約上の欠陥を指摘され、新規採用者のチェック態勢も見直すよう言われていたが、同社のは耳を貸さなかった。ここに経営陣の甘さがあったと指摘する向きは多い。
ただし、今回の事件でも明らかなように、インドでは例えこの種の暴動が起こっても、それはあくまで労働者と経営陣の間の問題であり、日本の国旗を焼いたり、日本大使館に石を投げたりする行為に発展しないことである。もしこれが中国であったら、暴動の矛先は日本人や日本の施設に向けられたであろう。海外でビジネスをしようとする者にとって、この差は大きい。