6月15日夜(インド時間)に発生した印中実効支配線付近のGalwan地区における衝突でインド陸軍大佐(大隊長)を含む20名のインド軍兵士が死亡しました。弊社が入手した情報によれば、中国軍兵士は35名以上死亡した模様です。この地域には、印中間の国境はなく、実効支配線が存在します。実効支配線(Line of Actual Control)は、1962年の中印紛争で引かれた約3,400kmの休戦ラインですが、中国軍によるインド側への侵入行為は過去にも度々行われており、この衝突が直ちに中印戦争に発展することは無いでしょうが、軍事面のみならず経済面にも少なからず影響を及ぼすことは間違いないところと思われます。
インド国内では、中国製品不買運動やインド企業に対する中国の投資を制限する動きが出て来ています。
中国に限った訳ではありませんが、インドは既に本年4月、国境を接する国の投資家・企業によるインドへの投資は全てインド政府の許可を得なければならないよう外資規制を修正しました。これまでの事後承認を廃止した訳です。
インドは戦略上中国を中・長期的な脅威対象国と位置付けており、いくらビジネス面で関係が深くなろうとも決して中国を信頼している訳ではありません。インドの軍人が良く例に出すのが参考図です。
彼らが必ず指摘するのが、油断すれば領土を取られるという点です。つまり現在の中国の領土の60%は元々中国のものではなく、侵略によって増やしたものであり、その中には1962年の中印紛争でインドが奪われたものもあるからです。隙あらば領土を拡張してくる中国に対する警戒感は安全保障に携わるインド人の心から消えることはありません。
今回の衝突で、商長けたインドビジネスマンも、流石に大手を振って中国ビジネスに突き進むことは憚られるでしょう。
蛇足ながら、今回の衝突は石器時代の手法で行われました。つまり、棍棒での殴り合いです。その棍棒には鉄条網が巻いてあります(写真)。これは、印中間の合意で、実効支配線に配置する兵士には小銃などの武器を携行させないことになっていたためです。
現場では凄惨な戦いが繰り広げられたと思います。殉職された双方の兵士のご冥福を心より祈りたいと思います(合掌)。